家族信託とは、遺産を持つ人が、自分の老後や介護などに必要な資金の管理・給付を行う際に、保有する不動産や預貯金などを信頼できる家族に託し、管理・処分を任せることができる、いわば「家族のための財産管理」のことをいいます。

最近、「認知症対策などに使える」と取り上げられるようになった比較的新しい制度ですが、家族信託自体のメリットは認知症だけに特化したものではなく、遺言書以上に幅広い対応が可能になりました。
いざというときのために、家族信託の仕組みやメリットについて知っておきましょう。

家族信託を検討するのはどんなとき?

下記チェック項目に該当する場合は、家族信託を検討してみましょう。

  • 遺産相続が発生した際に、資産の凍結を避けたい場合や、家族全員の合意があったことを書面に残しておきたい場合
  • 自身や家族の判断能力低下に備えたい場合
  • 子どもがいない場合など、希望する人や施設などを指定して遺産を引き継がせたい場合
  • 事業承継を考えている場合に、遺留分対策や持ち株の分散を防ぎ、事業を希望する人に承継したいと考えている場合

家族信託で押さえたい6つのメリット

① 財産管理ができる

例えば、父親が元気なうちに財産の名義を長男に移し、その財産を自分のために使って欲しい場合は、父親を委託者兼受益者とし、長男を受託者としておくことで、父親の老後の資産管理は安心して長男に任せられます。

財産管理のポイント(1)

成年後見の場合、財産管理に必要な手続をおこなう際はその都度成年後見人の同意を得る必要がありますが、家族信託なら必要がありません。信託の定めに従って財産管理が継続されるため、手間もかかりません。

財産管理のポイント(2)

成年後見制度は、毎年家庭裁判所への報告義務があり、資産(財産)の積極的な活用や生前贈与などの相続税対策がしにくいといった負担がありますが、家族信託は贈与税の控除がきます

財産管理のポイント(3)

成年後見は本人の判断能力が衰えるまでは財産の管理はできませんが、家族信託であれば判断能力があるうちから、自分の希望する人に財産管理を任すことができます

財産管理のポイント(4)

被相続人が元気なうちに財産管理を託すことができるため、オレオレ詐欺などへの対策ができます。

財産管理のポイント(5)

認知症や脳梗塞などで被相続人の判断能力が低下してからだと資産が凍結されてしまうケースも少なくありませんが、そのリスクを避けられます。

② 遺言書や生前贈与では実現できないことができる

遺言書は作成方法が厳格に定められていますが、家族信託であれば委託者と受託者との契約のみで行うことができます。

更に、自分の死後に発生した相続について、財産を承継する者を配偶者・子供・孫(二次相続者)まで指定することができます。遺言書よりも自由度が高く、個々の被相続人や相続人の意向に応じた相続の仕組みを作れるのが「家族信託」のメリットといえます。

遺産相続における順番づけができる

一般的な相続対策には、遺言書のほかに生前贈与を利用したものがありますが、生前贈与や「遺贈」をした財産に対しては、その次の相続人を指定できません。

しかし、家族信託を利用すれば、最初に指定した受益者が万が一亡くなってしまった場合でも、次の受益者を指定しておくことができます。

二次相続を想定した相続対策ができる

例えば、一次相続の被相続人Aは、財産をBには相続させたいけれど、Bの相続人であるCには相続させたくない場合、遺言書では、Aの希望を叶えることが困難です。

しかし、家族信託を利用すれば、AはBを財産の受益者とし、Bが死亡した後はCではなくDを受益者とする仕組みを作ることが可能です。

③ 倒産隔離機能がある

家族信託には、将来受託者が「信託財産に関係のない部分で多額の債務を負ってしまった場合」でも「信託財産は差押えられない」という倒産隔離機能があるため、万が一の備えになります。

倒産隔離機能とは、信託の主な機能の一つで、信託財産が委託者の名義ではなく、受託者の名義となることで、委託者の倒産の影響を受けないというものです。

④ 教育資金の一括贈与が1500万円まで可能になる

「孫の教育資金を1500万円まで非課税で贈与できる」という新制度が始まりました。

これを信託銀行に依頼すると、手数料が必要になるだけでなく、贈与されたお金は、金融庁に登録しなければ使うことができません。

しかし家族信託なら、銀行に支払う手数料が要らないだけでなく、孫はいつでも自由にそのお金を使うことができます。

⑤ 相続時の争いを軽減できる

例えば、被相続人が遺言書を書く時点で、すでに配偶者の判断能力がない場合、自分の死後の配偶者のことが心配になります。配偶者に財産を相続させることはできても、すでに判断能力がないため、賃貸契約や更新もできないし、施設に入っていれば月々の費用がかかります。

そんなとき、家族信託で「自分が亡くなったら受益者は妻に変更する」としておけば、賃貸契約などのすべてに対応することができます。

受益者の変更には、遺言書も遺産分割協議書も必要ありません

また、共有不動産がある場合、共同相続人全員が協力しないと処分できないため、将来的に兄弟などが不動産を共同相続してしまうと、いずれまた同様の問題が生じます。

家族信託は、共有者としての権利・財産的価値は平等を実現しつつ、管理処分権限を共有者の一人に集約させることで、不動産の“塩漬け”を防ぐことができます。

⑥ 専門家に相談しても高額な報酬は発生しない

家族信託は、被相続人が家族や親族に遺産の管理を託すため、高額な報酬は発生しないのが特徴です。

資産家を対象にしたものではなく、誰にでも気軽に利用できる仕組みですが、忙しい人は、手続きの方法を調べ、煩雑な手続きをこなすこと自体が精神的に負担となります。

自身の負担や手間を減らし、将来的なトラブルを予防したいなら、専門家への相談がおすすめです。専門家に家族信託を相談したときにかかる費用は、事務所によってまちまちなので、目当ての事務所におおよその相談費用を確認してみましょう

家族信託の手続き方法

信託契約の場合

代表的な家族信託が、委託者と受託者の「信託契約」によるものです。財産を託す人を「委託者」といい、委託者から財産を託される人を「受託者」といいます(※信託財産から発生する利益を受け取る人を「受益者」という場合もありますが、契約の当事者は基本的に「委託者」と「受託者」の2者です)

委託者が受益者を兼ねる場合「委託者兼受益者」と呼びます。

信託契約の手続き
① 目的を決める

信託契約を用いた家族信託では、「認知症対策のため」「障害のある子どもの生活を守るため」「自由な財産承継をかなえるため」…など信託の目的を決めます。

信託契約の手続き
② 内容を決める

目的が決まったら、信託契約の内容を決めます。「どのような方法で財産を管理するのか」「最初の受益者が亡くなったら、次は誰が受益者になるのか」などを可能な限り具体的に決めます。

信託契約の手続き
③ 信託契約書を作成する

内容が固まったら、信託契約書を作成します。内容が固まったら、信託契約書を作成します。信託契約書はできるだけ公正証書で作成すると良いでしょう。

信託契約の手続き
④ 財産の名義を委託者から受託者に移す

契約書を作成して委託者と受託者が署名押印した後に、財産の名義を委託者から受託者に移します。信託財産に不動産が含まれているのなら、信託にもとづいて所有権移転登記を申請しなければなりません

また、現金や預金を信託する場合は、新たに「信託口座」という専用の口座を作り、その口座で信託財産であるお金を管理します。

信託契約の手続き
⑤ 信託の開始

長い期間の信託になる場合は、信託監督人を設定して信託を管理し、信託が正常に機能していることをチェックする体制を作ると良いでしょう。

遺言代用信託の場合

遺言代用信託とは、「委託者が亡くなったときに、委託者から指定された人へ受益権を承継させる」信託契約を指します

遺言代用信託の手続き
① 信託契約を結んでおく

委託者が、生前に委託者自身を受益者とする信託契約を、受託者と結んでおきましょう。

遺言代用信託の手続き
② 受益権が承継される

委託者が亡くなったら、契約の中であらかじめ指定しておいた人に受益権が承継されます。

例えば、ひとり親のAさんとその子どもであるBさんが同居しており、Bさんには障害があり高齢のAさんは自分の死後のBさんの生活を心配している…といったケースでは、甥であるCさんを受託者、Aさんを委託者兼受益者として「Aさんが亡くなったらBさんに受益権がうつる」という内容で財産を信託することで、Cさんに財産管理を任せつつ、Aさんが亡き後は、信託財産の管理、運用により発生する利益をBさんに残すことができます

遺言代用信託は、「遺された人の生活を支える」という目的をスムーズにかなえられるのが特徴です。

家族信託が生まれた背景

信託とは、委託者が受託者に財産権の移転などを行い、受託者に対して一定の目的に従って、財産の管理や処分などをさせることをいいます。

信託銀行が行う年金信託や投資信託は、「受託者=信託銀行」となり、信託を事業として行うのは、信託業法の免許・登録を受けた信託銀行、信託会社しかできないことになっています。

しかし信託銀行は通常、個人の自宅を信託財産として受託することはないため、家族信託のニーズに応えられないことが多くなり、そこから「家族や親戚などの信頼できる知人に受託者になってもらおう」という形で家族信託が生まれました。

家族信託は、「受託者=家族」となり、家族信託に登場する人物は「委託者」「受託者」「受益者」の3人です。これに、場合によっては「信託監督人」「受益者代理人」等が加わります。長い期間の信託になる場合は、信託監督人を設定して信託を管理し、信託が正常に機能していることをチェックする体制を作ると良いでしょう。

また、受益者が高齢になり判断能力が減退した場合に備えて、受益者代理人を設定しておくことも受益者保護のために有益です。

花沢事務所でも「家族信託」のお手伝いも行っています。お気軽にご相談ください。

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