遺言書がなくても相続はできる
遺言書がなければ相続はできないのでしょうか?答えは「NO」。遺言書がなくても相続はできます。
しかし、遺言書があったほうがいい相続のケースもあります。そこで、遺言書がなくてもいいケース、あったほうがいいケースについて詳しく解説していきます。
遺言書がなくても良いケース
推定相続人が一人であれば、遺言書を書かずとも相続開始と同時に遺産が相続人に承継されるため、一般的に遺言書作成の必要性は低くなります。
ただし、その推定相続人の方が先に亡くなってしまうなど、相続人がいなくなってしまった場合は、せっかく積み上げてきた財産が国庫に没収されてしまう恐れがあります。
国庫に没収されてしまうことを望まない場合や、相続人に相続させる以外に財産を渡したい相手や機関などがある場合は、遺言書の作成を検討した方がよいでしょう。
遺言書があったほうが良いケース
①子どもがいない夫婦
相続人同士での争いを防止するため、遺言書を作成した方がよい典型的なケースです。
妻や夫に先立たれた配偶者の一方が、他方の配偶者の兄弟姉妹や甥姪と遺産分割協議を行わなければならないことになり、残された家族の精神的負担が大きくなります。
②離婚歴があり、前婚の配偶者との間に子どもがいる場合
①と同様、相続人同士での争いを防止するため、遺言書を作成した方がよい典型的なケースです。
前婚の配偶者との間の子と後婚の配偶者や子どもが、遺産分割協議を行わなければならないことになり、残された家族の精神的負担が大きくなります。
遺言書がない場合の相続の手続き
遺言書がない場合の相続の手続きの流れを解説します。
①戸籍謄本を手配し、相続人を確定する
被相続人の出生から死亡までのすべての戸籍謄本を揃え、相続人を確認します。
もし、相続人になるはずの人が先に亡くなっている場合は、その人の出生から死亡までのすべての戸籍謄本も必要になります。確定した相続人全員の戸籍謄本を取得して、その者が被相続人が死亡当時生存したことも証明しなければなりません。
②相続財産を漏れなく調査する
不動産や預貯金、有価証券などのプラスの財産もあれば、借金などのマイナスの財産もあります。
プラスの財産とマイナスの財産の棚卸しをして、仮にマイナスの財産の方が多い場合は、原則として家庭裁判所に対して死亡したことを知った時から3か月以内に相続放棄の申述をしなければなりません。
③相続人全員で、遺産分割協議を行う
①で確定した相続人全員により、②の調査の結果判明した財産を、誰がどの財産を相続するのか協議を行い、その結果を書面にして相続人全員により署名・実印による押印をし、印鑑証明書を添えて協議が調ったことを証明します。
④各種相続財産の名義変更手続きを行う
①や③で揃えた戸籍謄本や遺産分割協議書、印鑑証明書をもって法務局や金融機関等に対して名義変更の手続きを行います。遺産分割協議が整わなければ、遺産分割の調停や審判手続が必要になる場合もあります。また、相続財産が一定額を超えると亡くなってから10か月以内に所轄税務署に対して相続税の申告及び納税を行う必要があります。
このように、相続の手続きは、非常に煩雑で手間と根気がいる作業になります。不安がある場合は、司法書士をはじめ専門家に相談してみましょう。
遺言書がある場合の相続の手続き
遺言書がある場合の相続の手続きの流れを解説します。
①自筆証書遺言の場合
遺言書の検認手続きを家庭裁判所に対し行う必要があります。
遺言書の検認とは、相続人に対し遺言の存在及びその内容を知らせるとともに、遺言書の形状、加除訂正の状態、日付、署名など検認の日現在における遺言書の内容を明確にして遺言書の偽造・変造を防止するための手続きです。家庭裁判所は相続人全員に対し、検認期日に集まるよう通知を出します。
*相続人の調査は、家庭裁判所の職権ではなく、あくまで申立人が戸籍を集めて明らかにしなければなりません。
そのため、自筆証書遺言の場合は、作成するときの手間や費用はかかりませんが、相続開始後に残された家族の負担が大きいと言えるでしょう。
②公正証書遺言の場合
遺言書の検認手続きを家庭裁判所に対し行う必要がありません。そのため、公正証書遺言の方が迅速に財産承継を行うことが可能です。
ただ、公正証書遺言は、資料や証人が必要になるほか、公証人役場へ行って作成しなくてはならないなど、作成するときのルールが定められているため、自筆証書遺言よりも手間や費用がかかります。