親が突然亡くなったときや、認知症になったとき…
つい気が動転してしまい、金融機関に親が亡くなったことや認知症になったことを話したことによって、
親の銀行口座が凍結されてしまったという事例は少なくありません。口座凍結によって、親の葬儀費用や入院費用、施設入所費用が引き出せなくて困った…というケースをよく耳にします。
では、親が突然亡くなったときや、認知症になったとき、凍結された口座はもう元に戻せないのでしょうか。
死亡による口座凍結を防ぐには
口座名義人が死亡したということが判明した場合、金融機関がその方の口座を凍結するということがあります。凍結されてからは、たとえ暗証番号がわかっていたとしても、現金を下ろすことはできなくなります。
凍結されるケースとしては、大きく分けて以下の2つになります。
- 家族が金融機関に対して、本人が死亡したことを告知した場合
- 新聞のお悔やみ欄などを見て、金融機関が本人が死亡したことを知った場合
※遺族や葬儀社が死亡届を市区町村役場へ提出しても、市区町村役場から金融機関へ告知されるということはありません
このため、死亡による口座凍結を「防ぐ」には、「家族が金融機関に知らせない」「新聞のお悔やみ欄などに掲載しない」しか方法はありません。しかし、凍結されないように注意するよりも、実は「凍結を解除する方法を知っておく」ほうが建設的です。
凍結を解除するには、次の書類が必要なので、準備しておきましょう。
口座凍結解除のために必要な書類
法定相続人全員の戸籍謄本
戸籍謄本(*戸籍全部事項証明書ともいいます)は、本籍地の市区町村役場で取得します。
故人の人生の全てを確認できる戸籍謄本または改製原戸籍謄本または除籍謄本
故人の出生〜死亡までの「人生の全て」を確認できる戸籍謄本が必要なのは、他に相続人がいないかどうかを確認する「相続人調査の意味」もあります。
法定相続人全員の印鑑証明書
提出より概ね3ヶ月以内に取得したものが必要です。
葬儀費用の見積書等
払い出したお金を何に使うかの証明になります。
預金通帳・キャッシュカード・銀行印等
銀行によっては追加の書類が要求される場合もあります。
認知症による口座凍結を防ぐには
口座名義人が認知症であるということが判明した場合、金融機関がその方の口座を凍結するということがあります。
凍結されるケースとしては、大きく分けて以下の3つになります。
- 家族が金融機関に対して、本人が認知症であることを告知した場合
- 本人が金融機関にて手続きをしようとした場合に、金融機関側が意思能力が欠けていることが顕著であり、認知症と思しき状態になっていると気づいた場合
- 認知症になった本人の施設入所などのための振込を行うために、家族が本人と一緒に出向き、本人が認知症ということが判明した場合
このため、認知症による口座凍結を「防ぐ」ということはできません。
ただ、あらかじめ「家族信託」によって大切な財産を信頼する人に託しておけば、口座凍結のリスクを回避することは可能です。
家族信託で口座凍結リスクを最小限に
「家族信託」とは、自分の老後や介護等に備え、保有する不動産や預貯金などを信頼できる家族に託し、管理・処分を任せる家族の為の財産管理のことです。また、本人に対して「成年後見人」を選任することで、凍結された口座を再び使えるようにすることはできます。
「成年後見人」は判断能力が失われた本人に代わって財産を管理することになりますので、必要な書類を金融機関提示・提出することによって、口座からの支払いを行うことができます。ただし、あくまで本人のためにその財産が使われることが前提です。
成年後見人制度を利用する手順
成年後見人を選任するためには、家庭裁判所に申立をする必要があります。
まずは、本人が認知症であることを証明するために、医師による診断書の提出が必要となります。診断書は後見人選任用のひな形が裁判所に用意されているので、主治医に持参すると良いでしょう。
主治医に診断書を書いてもらったら、戸籍謄本や住民票に加え、本人の財産状況がわかる資料をそろえて家庭裁判所に提出をします。
その後、家庭裁判所の調査官による調査(申立人や後見人候補者との面談もあります)が行われ、裁判官による後見人選任の審判が行われます。
審判が確定すると後見が開始となり、法務局に対して成年後見人の登記がなされます。
成年後見人制度を利用する費用
申立の際に家庭裁判所に納める費用としては以下のものがあります。
- 収入印紙(申立書用)800円
- 収入印紙(登記嘱託用)2600円
- 予納切手 3470円(管轄裁判所により変わります)
- 鑑定費用 50000円~100000円程度(必ず鑑定をするわけではありません)
申立書作成を専門家に依頼する場合、上記費用の他に10~20万円前後かかります。なお、申立にかかる費用は本人に請求することはできず、申立人が負担することになります。また、成年後見人は報酬をもらう権利があり、家庭裁判所に申立をして、その報酬額を裁判所に決めてもらいます。
一般的には、月額3~5万円程度になることが多いようです。こちらは、本人の財産から支払われることになります。
家族信託のメリット
家族信託は、信託契約の時点で受託者により定められた目的に従った資産の管理と運用が始まるので、資産の管理や運用状況を本人(委託者)が見届けられるというメリットがあります。
そのため、「自分が元気な内に資産が承継できる」という安心感が得られるのが最大の特徴です。
【家族信託のメリット】
- メリット①
後見制度より負担や成約が少ない - メリット②
親の財産管理が容易に行える - メリット③
遺言書より形式面・手続面で規定が緩く自由度が高い - メリット④
生前贈与や遺贈ではできない財産承継の順位づけが可能 - メリット⑤
倒産隔離機能があるため、将来自分(委託者)や受託者が信託財産に関係のない多額の債務を負ってしまった場合でも、信託財産は差押えられない - メリット⑥
「自分が亡くなったら受益者は妻に変更する」と定めることができるため、自分や配偶者の認知症対策に活用できる - メリット⑦
共有者としての権利・財産的価値は平等を実現しつつ、管理処分権限を共有者の一人に集約することができる - メリット⑧
遺言書では不可能な二次相続が指定できる
家族信託と成年後見人制度の違い
家族信託は、「同居家族や親戚などの信頼できる人に受託者になってもらい、財産管理を委ねる」というのが、基本的な仕組みです。認知症や脳梗塞などで本人の判断能力が低下すると、有効に資産を管理・処分できる人がいなくなってしまい、相続対策にも着手しにくくなります。
一方、この認知症対策の一つとして、任意後見制度の利用が考えられますが、任意後見制度は、資産を持つ人が元気なうちに、自己が判断能力を失ったときを見越して財産を管理する後見人を予め選定(任意後見契約の締結)しておく制度です。そのため、実際に機能するのは、判断能力が低下してからになります。
また、任意後見人による財産管理は、裁判所の監督下のもとでの財産保全が求められ、また本人保護のためにしか行動することができませんので、例えば妻や孫や子供のためにお金を使ってあげたくても、使ってあげることができず、現実的には本人の理想通りには活用しづらい面があります。
このため、任意後見制度は実際にはあまり頻繁に利用されているとはいえません。
任意後見契約をすべきか、家族信託を利用するか、判断や具体的な手順について迷った場合は、相続問題が得意な専門家に相談してみましょう。
親に遺言書の作成をスムーズに促すコツ
①遺言書作成セミナーに「一緒に」参加することを勧めてみる
「遺言」という言葉に抵抗感があるようなら、エンディングノート作成セミナーでもOKです。
②上記セミナーで出てきた話題について話し合ってみる
遺言書作成セミナーやエンディングノート作成セミナーで出てきた話題について話し合う流れで、親が亡くなったときや認知症になったときに遺言書やエンディングノートがないと、遺された家族が大変なことになった事例を話してみましょう。
③遺言書について詳しく「説明」をする
基本的な遺言書の作り方や遺言書があるときとないときの手続きの違いなどを、あくまで「説得」ではなく「説明」します。あまり強い言葉を使ったり、「遺言書を書かないと介護しない」というようなことを言ってしまうと、「強迫による相続欠格」に該当してしまうということもありますので、注意が必要です。