家族信託と生前贈与の違いとは…それぞれ「もたらす効果」が全く異なる
家族信託と生前贈与は、どちらも「財産の持ち主を変える」という意味では、似ている制度です。
しかし、家族信託と生前贈与のもたらす効果はまったく異なります。
ここでは、家族信託と生前贈与それぞれのメリット・デメリットなどについて解説しますので、どちらがいいか目的に合わせて考えてみてください。
もしも判断に迷ったときは、専門家に相談して、意見を聞いてみることをおすすめします。
家族信託とは?
自分で自分の財産管理ができなくなってしまった時に備えて、家族に自分の財産の管理や処分ができる権限を与えておく方法のことを、家族信託といいます。
家族ではなく、他人に報酬を払って財産管理を任せたり、運用を行ったりしてもらう方法としては、投資信託などがありますが、家族信託は家族間での利用が想定されているため、財産管理のための報酬が発生しないという特徴があります。
信託をしておけば、その後に本人の判断能力が低下しても、資産凍結されることなくスムーズに資産の管理・処分できるメリットがあります。そのため、元気なうちに信託を検討しておくことをオススメします。
反面、初期費用がかさんだり、税務申告の手間がかかったりするなどのデメリットもあるため、自分の資産に合わせてどのような計画で進めるのが良いか、専門家と相談した方が良いでしょう。
家族信託のメリットとは
財産管理が委託者の判断能力に影響されない
認知症を発症してしまうと、一般的には単独での法律行為が認められなくなります。
程度にもよりますが、預金を下ろすことや不動産の売却などができなくなり、その人の財産は家庭裁判所の監督下に入ります。
家庭裁判所の監督下に入れば、財産の運用・処分が制限されてしまいます。
しかし家族信託は、認知症発症前に財産所有者本人と信託契約を結ぶため、その後の判断能力低下に関係なく、財産管理を続けることができます。
【比較】成年後見制度では、下記のような負担や制約があります
(1)家庭裁判所(後見監督人が選任されている場合は後見監督人)への定期的な報告義務の負担が重い。
(2)後見監督人が選任された場合の後見監督人報酬の負担(月額1~2万円程度)がずっと続く。
(3)成年後見人が行えるのは、家族にではなく本人にとってメリットがあることに限られる。
委託者の思い通りに財産の承継等を決定できる
信託契約の中で、財産権を引き継がせる人を定めておくことができ、次の後継者だけではなく、次の次の後継者まで決めておくことができます。これは、遺言でも実現不可能なこととされています。
家族信託のデメリットとは…実はほとんどない
家族信託のデメリットはほとんどないとされていますが、あえて挙げるなら、以下の2点があります。
損益通算ができなくなる
投資用不動産を2箇所以上持つ方が家族信託した場合、信託した不動産の損益通算ができなくなります。
信託した不動産において生じた損失は、租税特別措置法においてなかったものとみなされ、他の不動産の黒字から相殺できなくなります。
そのため、特に修繕等の必要がある不動産を信託する際は、十分に注意する必要があります。
受託先の選定には工夫が必要である
受託者次第では、信託財産を受託者自身のものとして扱うなどの危険性があります。
家族信託は、受託者に監督人がつく必要がなく、長期に渡り信託財産を扱うことになるため、受託者1人のみに任せると、信託財産を受託者自身のものとして扱う危険性があります。
受託者1人に任せるのではなく、受益者代理人や信託監督人などを信頼できる人や専門家に依頼することが重要です。
生前贈与とは?
生前贈与とは、生前に子どもや孫に財産を贈与することです。
親や祖父母が持っている財産を先に子どもや孫に対して贈与しておくことで、遺産相続をするときの相続財産が少なくなり、相続税を軽減できるため、一般的には相続税の負担を軽減するために節税対策として行われます。
また、贈与をする側にとっては、「自分が生きているうちに、あげたい人にあげたい財産を渡すことができる」「自分の死後に親族間のもめ事を回避できる」などのメリットがあります。
国としても「若い世代に早く資産を渡すことで経済効果も生まれる」ことを見込んで、生前贈与に関わる税の優遇措置を複数設けています。
生前贈与のメリットとは
節税効果が期待できる
暦年贈与
110万円×相続人の数×10年の控除が利用でき、簡単にいうと相続人の数が多いほど、大きな節税効果を期待できます。
相続時精算課税制度
60歳以上の父母または祖父母から、20歳以上の推定相続人である子、または孫に対して財産を贈与した場合に、2500万円の限度額に達するまで何度も控除が出来る制度です。
一度に多くの財産を渡すことができるので、将来値上がりなどが見込まれる財産などは、この制度で贈与するのが効果的かと思います。
ただし、一回でもこの制度を使うと110万円の非課税贈与が使えないので、注意が必要です。
教育資金
祖父母から教育資金として金銭の贈与があった場合、信託受益権または金銭等の価額のうち、1,500万円までの金額に相当する部分の価額については、金融機関等の営業所等を経由して教育資金非課税申告書を提出することにより、贈与税が非課税となる制度が使えます。
住宅取得資金贈与
平成27年1月1日から平成33年12月31日までの間に、父母や祖父母など直系尊属からの贈与により、自己の居住の用に供する住宅用の家屋の新築、取得又は増改築等の対価に充てるための金銭を取得した場合において、一定の要件を満たすときは、次の非課税限度額までの金額について、贈与税が非課税となります。ただし、条件があるため、事前に確認が必要です。
配偶者控除
婚姻期間が20年以上の夫婦の間で、居住用不動産又は居住用不動産を取得するための金銭の贈与が行われた場合、基礎控除110万円のほかに最高2,000万円まで控除(配偶者控除)できるという特例です。
ただ、配偶者が死亡した時の二次相続に対応できないなどの欠点もあるため、住宅を贈与するような場合は、専門家に一度相談することをおすすめします。
遺産を渡す時期や相手を自由に選べる
生前贈与は、いつ誰に何を贈与するのか、贈与時期や相手を選べるため、土地や不動産、有価証券といった「価額が普遍でないもの」を渡したい場合、将来的に値上がりがある可能性が高いのであれば、事前に贈与することで、節税に繋げやすくなります。
また、相続人間のトラブルで多いのが、誰がどの遺産をもらうのかという部分が大きいため、相続時のトラブル回避につながります。
生前贈与のデメリットとは
土地や不動産の贈与では課税対象になる
生前贈与は贈与税の節税には繋がりますが、不動産を誰かに譲る際は必ず不動産の「登録免許税」や「不動産取得税」などが発生します。
そのため、不動産の生前贈与を行うなら、節税効果が見合っているかを判断する必要があります。
税務署に認めさせることが難しい
生前贈与があったことを税務署に認めさせることが難しいというデメリットがあります。
以下のようなものが認めさせる材料となるので、行う際はきちんとチェックしておきましょう。
・受贈者(もらった人)が財産を受け取ったと認識していること
・書類上で贈与したと証明できること
・受贈者が贈与税の申告をしていること
・受贈者が自分で通帳やなどを所持していること
・受贈者が贈与者からもらったお金などを使っていること
相続時点から3年以内の贈与は無効になる
被相続人が亡くなる3年以内に贈与された財産は相続財産として、相続税の対象になってしまいます。