コラム一覧

金銭贈与と不動産贈与の違いとは?必要書類や手続き方法を解説

金銭贈与と不動産贈与の違いを正しく理解しないと、トラブルへ発展するおそれも

生前贈与は、一見相続税対策に有効なようですが、十分に理解した上で行わないと相続税よりも高い税率で課税され、必要以上のトラブルも招きかねません。

一方で、贈与者が財産取得者を選べるというメリットもあり、被相続人の死後に相続人同士のトラブルを回避する効果が期待できます。
金銭贈与と不動産贈与の違いを中心に、有効な生前贈与の方法を知っておきましょう。

金銭贈与と不動産贈与、それぞれ解説

金銭贈与の特徴と手続きの流れ

金銭贈与とは、「お金をあげる」と伝えて、相手がそれを承諾すれば成立する贈与のことを指します。
ただし、その金銭の授受が贈与であったことを証明するために、口頭だけではなく、「贈与証書」などの契約書を作成しておくことが重要です。

この贈与契約書を作成せずに、通帳への記帳などで代用しようとする場合がありますが、税務署に確実に認めてもらい、相続時のトラブルを避けるためにも、金銭贈与の場合の贈与契約書は用意しておきましょう。

また、しっかりとトラブルを回避するために、契約書は手書きで作成し、捺印は実印で押印し、印鑑証明書を添えることを忘れずに。
そして、客観的な記録が残るように、現金の受け渡しではなく、銀行口座の振込にしておくことが大切です。

金銭贈与の流れ
「契約」→「引き渡し」

不動産贈与の特徴と手続きの流れ

不動産贈与は、口頭でも成立自体はしますが、対象の財産が高額であることや、名義を変更するためには「不動産登記」が必要であることが、金銭贈与と異なります。登記申請は名義変更のために行われ、下記の書類を法務局へ提出して手続きします。

必要な書類一覧

  • 不動産の権利証または登記識別情報
  • 贈与者の印鑑登録証明書(登記申請時点で発行より3か月以内)
  • 登記原因証明情報
  • 固定資産評価証明書(該当物件所在地の市区町村役場で取得)
  • 不動産の登記簿謄本(全部事項証明書)
  • 新名義人の住民票
  • 登記申請書

「贈与証書」などの契約書を作成し、贈与者・受贈者双方が署名・押印します。その書面をもって、法務局に対して「所有権移転の不動産登記申請」を行うことで、対外的に不動産の名義が変わったことを主張することが可能になります。

なお、名義変更(=所有権移転登記)をする際には、登録免許税が課税されます。金銭贈与と比較すると複雑な手続きなので、登記申請のプロである司法書士に依頼すると良いでしょう。

不動産贈与の流れ
「契約」→「引き渡し」→「登記」

不動産贈与のメリット

(1)贈与者が財産の取得者を選べる

一般的な相続は、効力のある遺言がある場合を除き、被相続人の死後に相続人が遺産分割協議をして決定されます。

一方、生前贈与は、贈与者が生前に行う行為なので、希望する相手を財産の取得者として自由に選べます。
被相続人は死後の相続には関わりようがありませんが、生前贈与であれば確実に希望する相手に財産を渡すことができます

また、相続時精算課税制度や住宅資金特例、教育資金特例などを利用できれば、贈与税の課税を回避することができる場合があります。

(2)相続者同士のトラブル回避ができる

生前贈与した財産は、その時点で財産の所有権が贈与を受けた人に移転すること、そして贈与者がまだ生きていることから、財産の所有者が亡くなってから開始され、相続人が遺産分割協議をして決定される遺産相続と異なり、トラブルが起きにくくなります

不動産贈与のデメリット

贈与契約書がないと税務署に否認される

贈与税の基礎控除の適用を受けるためには、対象行為が贈与であることを税務署に認めてもらう必要があります。
その承認に有効なのが贈与契約書です。

贈与契約書には、下記5点を明記しなければならず、この記載に不備があると、場合によっては贈与が認められないことがあります。

5つの明記ポイント

  1. 誰が(贈与者)
  2. いつ(贈与時期)
  3. 何を(贈与財産の内容)
  4. どうやって(贈与の方法)
  5. 誰に(受贈者)

この契約書が適正に作成してあれば、贈与が確実に行われた証明になるので、贈与の契約が否定されるリスクを限りなく軽減できます。

贈与金額が年間110万円を超える場合は、贈与税の申告をする必要がある

贈与金額が年間110万円を超える場合は申告が必要になるため、申告の際には贈与契約書の添付も忘れないようにしましょう。

登記されていないと贈与とは認められない

贈与対象が土地や建物といった不動産の場合、登記されていないと贈与とは認められない場合があるので、法務局で登記事項証明書を取得して確認しておく必要があります。

よくある相続事例と有効な相続税対策

よくある相続事例(1)

父親が死亡し、法定相続人はその妻と子1人。相続財産は8000万円。基礎控除は4200万円なので、3800万円に対して相続税が課税されてしまう。※他の細かい控除は含まず

相続人である子が調べたところ、配偶者がすべて相続をすれば、1億6000万円まで非課税(いわゆる配偶者控除)であることがわかりました。

つまり、母親が全財産を相続すれば、相続税は1円も発生しないということです。

しかし、その数年後、母親が亡くなったときに、父親から相続した8000万円と元々母親が持っていた2000万円の預貯金、合計1億円の財産を子が1人で相続することになります。

この場合、当然「配偶者控除」は使えません。しかも基礎控除は3600万円まで下がるため、6400万円に対して相続税が発生してしまいます。

対策方法について

一般的に相続税は「累進課税」なので、課税対象額が高ければ、税率も高くなります。

そのため、相続税は発生してしまいますが、父親が亡くなったときにすべてを母親(配偶者)が相続するのではなく、ある程度、子も相続しておき、母親が亡くなったときの相続財産を減らしておくということも必要です。

つまり、相続税の節税を考えるときは、その時発生した相続のことだけではなく、次に発生するであろう2回目の相続との合計で考える必要があるのです。
税額の計算は特殊で難しい部分もあるため、相続税を専門に取り扱っている税理士事務所に相談してみましょう。

よくある相続事例(2)

暦年贈与の年間110万円の控除を利用して、毎年100万円ずつ金銭の贈与をしていけば贈与税がかからないと思い、贈与の契約書を作成。
(しかし、毎年贈与契約書を作成するのが面倒なので、「毎年100万円ずつ10年にわたって贈与する」という贈与契約書を作成した。)

この場合、「取り決めを行った年に1000万円の定期金に関する権利を贈与した」として1000万円に対して贈与税が課税されてしまいます。

対策方法について

多少面倒でも、毎年その都度贈与契約書を作って、贈与をおこなう必要があります。
また、「贈与の日付を毎年同じ日にしない」「金額も変える」などしておけば安心でしょう。

ただ、途中で贈与者が死亡してしまった場合、将来贈与するはずであった財産は相続税の課税対象となるだけでなく、相続発生前3年以内の贈与についても相続財産に引き戻され、相続税の課税対象となってしまうので注意しましょう。

税務署によっては、1年ごとに贈与を受けると考えるのではなく、約束をした年に、定期金に関する権利(10年間にわたり毎年100万円ずつの給付を受ける権利)の贈与を受けたものとみなされて、贈与税がかかってしまう場合もあります。

生前贈与のポイント

  • 生前贈与は、正しく使いこなせば、相続税を節税することにつながる。
  • 贈与者が財産取得者を選べるため、相続人同士のトラブルを回避する効果が期待できる。
  • 税務署に認めてもらうための証明「贈与契約書」の作成を忘れない。

関連記事

初回相談無料 初回相談無料
Webで相談 Webで相談