親の借金…遺された子どもたちはどうする
亡くなった親が借金をしていた場合、子どもは親の借金を返済しなければいけないのでしょうか?
もしくは借金があることを知らずに相続してしまった後、相続財産の中に借金があることが分かった場合、相続放棄はできるのでしょうか?
相続というと、土地や家屋、株、現金など、自分に利益となる財産を受け継ぐものと思われがちですが、そうでない相続もあるのです。亡くなった親に負債があり、その負債を子どもが相続すれば、子どもは借金を返済していかなければなりません。
では、相続人は絶対に、亡くなった人の負債を返済しなければならないのでしょうか?
知らずに親の借金を相続してしまった場合はどうする?
相続人となった場合、何もしなければ、無限に被相続人の権利義務を承継する(民法920条)ことになります。
これを「相続の単純承認」といいます。
被相続人の権利義務には、不動産や預貯金のようにもらって嬉しいものも、借金のようにもらって嬉しくないものもすべてを含むのです。
たとえば親が亡くなったあとに親の遺産を整理したところ、借金の方が多いと分かった場合、親が亡くなったことを知った日から3か月以内に家庭裁判所に相続放棄の申述をすれば、初めから相続人でなかったものとみなされ(民法915条1項、938条、939条)、借金を返済する義務から免れることができます。
では、相続放棄の期限である3ヶ月を過ぎたら、もう放棄できなくなるのでしょうか?
親が亡くなってすぐに借金の存在がわかればいいですが、借金の存在を入念に隠していた場合や、亡くなった親と絶縁状態で生き別れになり、そもそも亡くなったことも知らされない状況も少なくありません。
その場合、亡くなってから3か月以内に必要書類を揃え、家庭裁判所で手続きを終えるのは難しいでしょう。
相続放棄の期限が過ぎていても、「事情によっては相続放棄できるケース」もあります。
「相続放棄をしたいけれど、期限が過ぎてしまった」という場合は、あきらめずに専門家に相談してみてください。
また、相続放棄の期限内や手続き中に「借金を払え」と督促された場合も、まずは専門家に相談してみましょう。
親の借金の有無を確認するには
①銀行などの金融機関から借金をしていた場合
通帳を見れば判断できますし、返済が遅れている場合は、自宅に通知が届くので、相続する前にわかるはずです。
②カード会社や消費者金融から借金をしていた場合
自宅に借用書などが残っていれば判明します。残っていない場合で、支払いに遅延がある場合は、カード会社や消費者金融から自宅に通知が届きます。
③友人・知人などに借金していた場合
契約書などがあれば良いですが、ない場合は相手から請求が来るまでは知る術がありません。親から直接聞いていなければ知りようがないため、相続してしまう前に確認するのは難しくなります。相続発生前であれば、直接親に確認するのが一番ですが、相続発生後でも、預貯金通帳や親宛に送られてくる郵送物を確認すれば、ある程度予想がつくはずです。
相続人として、信用情報機関に信用情報(いわゆるブラックリスト)の照会をかけることも可能です。怪しいと思ったら、専門家に相談してみると良いでしょう。
相続財産にプラスの遺産とマイナス遺産の両方が含まれる場合はどうする?
親からの相続財産の中に、不動産などのプラスの遺産と、借金などのマイナス遺産の両方が含まれる場合はどうしたら良いでしょうか。
この場合、相続放棄とは別に、「限定承認」という方法があります。
「限定承認」とは、被相続人の債務などを弁済することを留保の上、不動産などの利益となる財産のみ、相続の承認を行うこと(民法922条)。
つまり、プラスの遺産を超えない範囲でマイナス遺産を相続できる制度です。
限定承認を行うために必要なこと
ただし、「限定承認」を行うには、下記3項目を満たさなければなりません。
- 亡くなったことを知った時から3か月以内に
- 相続人全員で
- 被相続人の財産目録を作成して、家庭裁判所に限定承認をする旨の申述を行う
相続放棄の場合は、相続人それぞれが単独で行うことができるのでハードルが低いですが、「限定承認」を行うには、①から③の条件を満たす必要があるため、相続放棄ほど広く利用されてはいません。
子どもが親の借金の保証人をしていた場合はどうする?
子どもが親の借金の保証人になっている場合は、親の相続によって承継された義務とは異なるため、相続放棄をしても保証人であることに変わりはありません。
保証人は、債務者の借金を保証する人なので、債務者が死亡した場合、借金を返済していかなくてはなりません。
ただし、専門家に相談すれば、債権者と交渉して解決に導ける可能性があるので、あきらめずに相談してみましょう。
親の借金を相続しないために
- 親が元気なうちに確認しておく
- 通帳、督促状、借用書などの有無を確認し、借入先がわかれば問い合わせる
- 相続放棄の期限は、相続の事実を知った日より3ヶ月以内
- プラスの遺産とマイナス遺産がある場合は、プラスの遺産を超えない範囲でマイナス遺産を相続できる「限定承認」という制度がある
- ただし、相続放棄をしても保証人になった借金は返済しなければならない