生前贈与とは、被相続人が死亡する前に自分の財産を人に分け与える行為です。
個人の財産は、各個人の意思により自由に処分できるのが原則です。
また生前贈与は、将来負担すべき相続税を抑えるという目的のために利用されます。
生前贈与の注意点
生前贈与の際の注意点として、次の4点を確認しましょう。
- 贈与税と相続税の節税額の分岐点を確認しておくこと
- 遺産分割のトラブルとならないように注意すること
- 贈与契約書を作成し公証人役場で確定日付を取っておくこと
- 相続開始前3年以内の相続人に対する贈与は相続財産として加算されることを確認すること
生前贈与の方法
贈与税は暦年課税で、1年間に基礎控除額が110万円です。つまり、年間で110万円以下の贈与については課税されず、申告も不要ですので、一番シンプルな生前贈与の方法だといえます。
生前贈与を活用した節税対策には、110万円の基礎控除を最大限利用することのほかに、配偶者控除を利用する方法があります。
条件は、婚姻期間20年以上の配偶者からの贈与であることと、居住用不動産または、居住用不動産を取得するための金銭の贈与であることです。2000万円まで課税価格から控除できます。
相続税は、5000万円+1,000万円×法定相続人数という基礎控除や、配偶者税額軽減などの措置が取られているために、かなり多額の遺産総額の見込みがないと発生しないので、生前贈与などが税制上効果を生むケースはごく少数といえるかもしれません。
一般のサラリーマン家庭においては、生前贈与が相続税対策に役立つかどうかは定かではありません。
というのも、相続税には税金のかからない基礎控除や、配偶者税額軽減などの優遇措置があるからです。
相続税対策として生前贈与を活用するには、まず被相続人の資産状況の把握が必要です。
生前贈与していても実は税金がかからない状況だった、ということになっては意味がありません。
この制度がよく使われる場合としては、不動産・土地の相続等、多額の金額が動く時です。
この場合には、税金に詳しい人でもしっかり確認しておいてください。
住宅取得等資金の贈与税の非課税制度(特例)
住宅取得等資金の贈与税の非課税制度(特例)とは、父母や祖父母から、住宅の新築や購入、リフォームするための資金を贈与される場合に、一定の要件を満たせば、一定の金額まで、贈与税を非課税にできる制度です。
▼契約年ごとの非課税限度額(通常の住宅)
・平成27年中 1000万円(1500万円)
・平成28年1月1日~令和2年3月31日まで 700万円(1200万円)
・令和2年4月1日~令和5年12月31日まで 500万円(1000万円)
※カッコ内は、適用を受ける住宅が①断熱等性能等級4以上または一次エネルギー消費量等級4以上であること②耐震等級(構造躯体の倒壊等防止)2以上または免震建築物であること③高齢者等配慮対策等級(専用部分)3以上であること
のいずれかに適合する場合、非課税限度額がそれぞれ500万円
上乗せされています。
また、消費税率10%が適用される住宅だと、さらに非課税限度額が上がります(カッコ内の金額の条件は同上)。
▼契約年ごとの非課税限度額(消費税率10%適用の住宅)
・平成31年4月1日~令和2年3月31日まで 2500万円(3000万円)
・令和2年4月1日~令和5年12月31日まで 1000万円(1500万円)
特例を受けるための要件
この特例を適用するための要件は、主に以下のとおりです。
●受贈者側からみて、贈与者側が直系尊属であること
(したがって、親子間贈与だけでなく、祖父母子間贈与や祖父母孫間贈与でも適用できます)
●受贈者の年齢が、贈与を受けた年の1月1日において満18歳(注)以上であること
(注)「18歳」とあるのは、令和4年3月31日以前の贈与については「20歳」となります。
●受贈者の年間所得が、2000万円までであること
●住宅取得資金の贈与であるので、贈与を受けた年の翌年の3月15日までに住宅を取得し、居住すること
(または居住することが確実と見込まれること)
暦年贈与と連年贈与
贈与税というのは、もともと相続税の補完として位置づけられていたため、「相続税よりも税率が高い」という印象から有効な手段ではないと勘違いしている人が多いようです。
確かに税率は高いのですが、年110万円の基礎控除があり、年数をかければ、節税の効果も出てきます。
例えば、子供が二人いて、20年かけて、毎年限度額の110万円まで贈与をすれば、4,400万円までの財産は税金がかからないのです。とは言え、最初から4,400万円の贈与をする意図と税務署にみなされると、初年度に4,400万円全額の課税がされるため、注意が必要です。
これを「連年贈与」と呼びますが、贈与税は税率が高いので、多額の税額が課されてしまいます。
連年贈与とみなされないためには
先述のように、ある程度年数をかけて贈与をしていく場合、連年贈与認定を避けるようにしなければなりません。
そのためには下記のことを注意して、進める必要があります。
・贈与契約書を贈与の都度作成する
・110万円を超える贈与をして贈与税申告をするなど、記録を残す(贈与を受ける方ご本人の口座に振り込む)
・毎年違う時期に、毎年違う金額、違う種類の財産で贈与を行う等、単発の贈与であることを強調する。
相続税と贈与税の税率の差額を利用する
より財産が多い方、贈与に年数をかけられない方は、年110万円の贈与では、物足りないと思われるかもしれません。
この場合、金額によっては、相続税より贈与税の税率が低い部分があるため、その適用範囲において贈与を行うことで、節税効果を大きくすることも可能です。
もちろん、事前に税理士に試算してもらった上で、実際の贈与額・贈与を行う年数等は、資産の内容、現金の有無、キャッシュフロー等を勘案して、個別に考えていかなくてはなりません。
夫婦間の贈与
夫婦間の贈与の特例は、一定の条件を満たせば、2,110万円(基礎控除枠110万円+配偶者控除枠2000万円)まで贈与税が発生しないという配偶者控除が受けられるものです。
婚姻期間が20年以上の夫婦で、贈与の対象が居住用不動産等であること以外に、いくつか条件があります。
特例を受けるための適用要件
夫婦間贈与における配偶者控除を受けるためには、以下の条件を満たすことが必要です。
1)夫婦の婚姻期間が20年を過ぎた後に贈与が行われたこと
2)配偶者から贈与された財産が、自分が住むための国内の居住用不動産であること。
または国内の居住用不動産を取得するための金銭であること
3)贈与を受けた年の翌年3月15日までに、贈与により取得した国内の居住用不動産、 または贈与を受けた金銭で取得した国内の居住用不動産に、贈与を受けた者が現実に住んでおり、その後も引き続き住む見込みであること。
※配偶者控除は同じ配偶者の間では一生に一度しか適用を受けることができません。
適用を受けるための手続
以下の書類を添付して、贈与税の申告をすることが必要となります。
1)財産の贈与を受けた日から、10日を経過した日以後に作成された戸籍謄本又は抄本
2)財産の贈与を受けた日から、10日を経過した日以後に作成された戸籍の附票の写し
3)居住用不動産の登記事項証明証
4)その居住用不動産に住んだ日以後に作成された住民票の写し
ただし、戸籍の附票の写しに記載されている住所が居住用不動産の所在場所である場合には、住民票の写しの添付は不要です。
配偶者控除の対象となる居住用不動産の範囲
贈与する居住用不動産にも、ある程度の条件が求められます。
■贈与を受けた夫や妻が住むための国内の家屋、またはその家屋の敷地であること(居住用家屋の敷地には借地権も含む)
■居住用家屋とその敷地は一括して贈与を受ける必要はなく、居住用家屋だけや居住用家屋の敷地だけの贈与を受けることも可能。
この居住用家屋の敷地だけの贈与を受けるときには、その家屋の所有者が次のいずれかに当てはまることが必要です。
(ア) 夫または妻が居住用家屋を所有していること
(イ) 夫または妻と同居する親族が居住用家屋を所有していること
※ 敷地の贈与を受ける場合には敷地の一部の贈与を受けることができます。
※ 居住用家屋の敷地が借地権のときに金銭の贈与を受けて、地主から底地を購入する場合も認められます。
不動産価格の算定
1)建物に関しては、市区町村で発行される固定資産評価証明書の価格を基準とします。
2)土地に関しては、路線価から算出された価格を基準とします。
負担付死因贈与とは
贈与する人と、贈与を受ける人との合意内容を契約で交わすのが死因贈与契約です。
贈与する方の意向を、贈与を受ける方は合意しているとみなされますので、贈与した方が亡くなった後、その意向を放棄することが出来ないのが特徴です。
これに対して、実は遺言書は執行者を付けたとしても、相続人全員が遺言書に反する内容で協議し、合意した場合、無理矢理実行させることは出来ません。
もし、意思を確実に実現したい場合は、死因贈与契約も有効と言えます。
さらに「負担付」というのは、贈与をする方が、贈与を受ける方に、何らかの義務・負担を強いることです。
贈与を受けた方は、相続が発生するまで、その義務・負担を全うし、利益を受けるということになります。
具体的には、“今後の身の回りの世話を続けて欲しい”“同居して面倒を見て欲しい”といったケースが多く、遺言書よりも実行度合が強く、成年後見よりも自由度が高いという意味で、使い勝手の良い制度になっています。
負担付死因贈与契約の注意点
死因贈与の手続きにおいて、注意をしなければならないのは、契約内容の実行に疑問が発生したり、相続人間でトラブルが出ないようにしておくことです。
契約内容を明確に記載しておくことが大切で、
■贈与の対象資産
■負担の内容
が特に重要です。
資産が不動産の場合は、登記簿の記載に従って正確に記載しましょう。
また、預貯金は「銀行名」「口座の種類・番号・名義人」を明示します。
死因贈与契約も遺言書と同様に、執行者を指名することが可能です。
通常、死因贈与契約の内容は、他の相続人と利害が対立することが多いため、司法書士などの専門家を指定しておけば、執行が確実に進められることでしょう。
負担付死因贈与契約に、公正証書を利用する
死因贈与契約というのは、一般的な贈与契約と同じ類のものであり、書面になっていないと、贈与をする方が撤回することが可能です。
贈与を受ける場合、負担をするわけですから、撤回されないために書面にしておくことが大切です。
ちなみに、死因贈与という存在が法的にあるわけではありません。
言葉として定着しつつありますが、一般的な贈与に「贈与者の死亡により、その効力が生じる」という条件合意が付いているだけです。
贈与契約書には公正証書を利用するのが最も安全かつ確実と言えるでしょう。
負担付死因贈与契約の取り消し
負担付死因贈与の取り消しについては、その負担が履行されたかどうかで、大きく違ってきます。
まず、負担が履行されていない場合、遺贈の取り消しの規定により、取り消すことが可能です。
また、負担のない死因贈与契約の場合は、これもいつでも取り消すことが可能です。
しかし、負担が全部または一部履行された場合は、原則として取り消すことができません。
ただし、取り消すことがやむをえない「特段の事情」があれば、遺贈の規定により取り消すことができます。
死因贈与契約の特徴を端的に整理すると、
◇贈与を受ける人の承諾が必要
◇契約とともに権利義務が発生する
◇原則として取り消し・一方的な破棄は不可
となります。
遺言書における遺贈とは異なる法律行為です。
贈与する方が亡くなった場合、効力が発生するのですが、ご自身の財産を処分することになりますので、意思が明確であることが条件になるでしょう。
書面がしっかり作成されていれば、贈与を受ける人も承諾しているため、遺贈よりも実行性に優れていると言われているのです。
ただし、遺言書と同じように、遺留分減殺請求の行使は受ける可能性があります。
遺留分を考慮した設計が必要となるでしょう。
相続税と贈与税
ここでは、相続税と贈与税についてご説明いたします。相続財産の金額的な要件によって、生じる税金ですが、この対象となる方は、年間で5%も満たない状況です。
相続税について
相続税は、5000万円+法定相続人数×1000万 という基礎控除や、配偶者税額軽減などの措置が取られているため、一般のサラリーマン家庭においては、生前贈与が相続税対策に役立つかどうかは実際のところ、定かではありません。
・・・というのも、相続税には税金のかからない基礎控除、配偶者税額軽減などの優遇措置があるからです。
相続税対策として生前贈与を活用するには、まず、被相続人の資産状況の把握が必要です。
生前贈与していても、実は税金がかからない状況だった、ということでは意味がありません。
この制度がよく使われる場合としては、不動産・土地の相続等、多額の金額が動く時です。こうした場合には、まずは早期にご相談にお越しいただくのが一番良いと思います。
税理士の先生であっても、10人に1人くらいしか、年間で相続税を扱わないのが現状のようです。
贈与税について
贈与税は暦年課税で、1年間に基礎控除額が110万円です。
つまり、年間で110万円以下の贈与については課税されず、申告も不要ですので、一番シンプルな生前贈与の方法だといえます。
生前贈与を活用した節税対策には、110万円の基礎控除を最大限利用することのほかに、配偶者控除を利用する方法があります。
条件としては、婚姻期間20年以上の配偶者からの贈与であることと、居住用不動産または、居住用不動産を取得するための金銭の贈与であることです。2000万円までは、課税価格から控除できます。
贈与すべきか?相続すべきか?
贈与税は、ある一定額を境に相続税よりも税負担が大きくなります。
生前に贈与することで節税をと考える場合、贈与分岐点を活用することで、将来相続税評価額が高くなると思われるものを評価額が低いうちに贈与することができます。
贈与分岐点
毎年どのくらいを贈与すればよいか、その判断基準として、以下の税率比較表を参照のうえ、判断をします。
贈与税 | 税率 | 相続税 |
200万円以下 | 10% | 1,000万円以下 |
200万円超~300万円以下 | 15% | 1,000万円超~3,000万円以下 |
300万円超~400万円以下 | 20% | 3,000万円超~5,000万円以下 |
400万円超~600万円以下 | 30% | 5,000万円超~1億円以下 |
600万円超~1,000万円以下 | 40% | 1億円超~3億円以下 |
1,000万円以下 | 50% | 3億円超 |
生前贈与は計画的に
贈与後3年以内に相続が発生すると、贈与財産は、相続財産に含まれるため、相続税が課せられます。
したがって、相続の開始が近いからという理由で、間際に贈与をして相続税を減らそうとしても、3年以内に相続が発生してしまうと、その効果は発揮されません。相続対策は、今から計画的に実行することをお勧めします。
なお、財産を取得した時に贈与税を支払ってしまっている場合には、その贈与税額を相続税額から控除することもできます。